【人工知能(AI)その2】パターン認識

AIによって仕事が無くなると言われていますが、AIは決して得たいの知れないものではなく、人類が開発したデジタル回路上で、専門家によって選択、加工して与えられたデジタル情報を入力して、機械学習により分別力を向上させているに過ぎません。

機械学習による分別力とは、簡単に言うとパターン認識のことです。

パターン認識で最も利用されているものは検索エンジンかもしれません。インターネットの検索サイトで検索したいキーワードを入力して検索を実行すると、入力したキーワードに関連するサイトや画像などを表示します。表示されたサイトや画像の中から閲覧される回数が多いサイトや画像は、そのキーワードと関連性が強いと判断され、その結果、検索エンジンを動かしているソフトウェアが書き換えられます。

検索サイトでも使用されている画像認識が、人工知能(AI)の第三次ブームを支えていると言えるかもしれません。画像以外にも文字や音声もパターン認識の対象です。

20年くらい前の音声認識ソフトは方言や訛り(なまり)を認識することが難しく、認識の対象となる音声を登録、設定しても、標準語からはずれている音声を認識することは大変難しかったと聞いています。しかし、今では特に設定をしなくても人工知能(AI)が多くの音声データから学習した結果に基づいて、人間と会話ができるようになってきています。

一般には人工知能(AI)と呼ばれていますが、その実態はコンピュータやサーバ上で動いているソフトウェアです。

そのため、IBMでは人工知能(AI)ではなく、”コグニティブ・コンピューティング(Cognitive computing)”という言葉を使っています。

人工知能(AI)がソフトウェアである以上、その処理速度はハードウェアによる制約を受けるため、ハードウェアであるコンピュータやサーバの更なる性能向上が望まれています。

【人工知能(AI)その1】AIとトランジスタ

2019年3月12日の読売新聞に、「未来明るくするAI進化を」という江崎玲於奈先生の解説記事が掲載されました。

AIの第一次ブームは60年前くらい、そして第二次ブームは30年前くらいになります。
そして今、数年前から第三次ブームが始まっています。

第一次ブームと第二次ブームが終息した理由は、当時のコンピュータ・アーキテクチャとトランジスタ技術の発展にあったと言えるかもしれません。
コンピュータ・アーキテクチャとはコンピュータの設計思想のことで、Principle of operation(動作原理)に基づいて仕様が細かく決められており、トランジスタなどを集積して作られている電子回路の入出力について定義をしています。

CISC系の汎用型コンピュータ・アーキテクチャとバイポーラ・トランジスタ技術を利用したコンピュータ製品が世の中に出てきたのが、第一次ブームの終わり頃です。
そして、RISC系の並列処理型コンピュータ・アーキテクチャとCMOSトランジスタ技術を利用したコンピュータ製品が登場したのが、第二次ブームの終わり頃です。

一見すると壁にぶちあたってブームが去ったように見える第一次ブームと第二次ブームですが、新技術の登場により、その新技術を応用した研究結果が次のブームにつながっていると見ることもできます。

AIの技術はコンピュータグラフィックス(CG)技術の発展と同期しているように見え、その背景にあるのは全世界的なスマホの普及と言えます。
元々は60年前くらいのコンピュータに使われているバイポーラ・トランジスタ技術と、関連する様々な技術が発展、融合した結果が、現在のAIであるということができます。
そして、そのバイポーラ・トランジスタについて学ぶのが電子回路の授業です。
電子回路で作るパルスを電子データ、デジタル情報として取扱い、処理をするのがデジタル回路です。
その延長上にあるのがデータ通信の世界で、更にIoTへとつながっているのです。
電気電子学科では電気工事や電気エネルギーだけではなく、こういったことも学ぶことができます。

AIによって仕事が無くなると言われていますが、AIは決して得たいの知れないものではなく、人類が開発したデジタル回路上で、専門家によって選択、加工して与えられたデジタル情報を入力して、機械学習により分別力を向上させているに過ぎません。
AIの分別力による判断結果は機械的なものであり、決して見識の高いものとは言いきれず、最終的な判断は専門家の手によらなければいけないと考えられます。

江崎先生は30年前に本学院(学校法人読売理工学院)の特別顧問に就任頂き、入学式で記念講演頂いたというご縁がございます。
そして30年前のその頃、現場を走り回っていた私が勤務していた日本企業の非常勤取締役で、米国本社の研究所のフェローという、雲の上の世界の大先輩です。
これを機会に、AIについて色々と書いていこうと思います。

ハインリッヒの法則 【工事業界の専門用語その7】

施工管理ヒヤリ・ハット報告を集めて、その背景にある不安全行動や不安全状態を分析して、重大災害発生の防止に役立てることをヒヤリ・ハット活動と言います。

ヒヤリ・ハット活動の根拠になっているのが、ハインリッヒの法則です。
ハインリッヒの法則は工事業界だけにかかわらず、あらゆる職場での労働安全衛生管理に関連して出てきます。

アメリカの損害保険会社に勤務していたハインリッヒは、死亡などの重大災害を含む、多くの災害を分析することで、次の法則性を見出しました。

1件の重大災害が発生する背後には、29件の軽傷災害と、300件の物損などの事故が存在する。
そして、それらの発生要因として更に多くの不安全行動や不安全状態が存在している。

ハインリッヒの法則と同様に、重大災害とその他の災害件数を分析した結果として、バードの比率というのもあります。

工事の現場では、ヒヤリ・ハットなどの把握を積極的に行い、不安全行動や不安全状態を明確にすることで、可能な限り迅速、的確にその対応策を講じ、安全な職場環境の確保に努めています。

重大災害などが発生したときには、作業が中断となり工程に影響を与える可能性もあるため、安全管理を単独で行うのではなく、工程管理や原価管理とあわせた複合的な管理を現場では行っているのです。

ヒヤリ・ハット 【工事業界の専門用語その6】
http://blog.livedoor.jp/yomiuri_denki/archives/52301024.html

ヒヤリ・ハット 【工事業界の専門用語その6】

施工管理ヒヤリ・ハットとは現場での作業中に、「ヒヤっとした」り「ハッとした」ことです。

例えば、転倒しそうになったので「ヒヤっとした」ことをヒヤリ・ハットと言います。
もしも転倒してしまって、現場で絆創膏を貼る程度では治まらず、病院で診察を受けて治療が必要になる程度の怪我をしていたら労働災害になります。
また、転倒したことが原因で近くにあったものに衝突してしまい、クレームや損害賠償請求の対象となる物損事故を発生させてしまう可能性もあります。

ヒヤリ・ハットは大きな問題にならない、軽微な怪我や物損であっても事故として取扱います。
それは、ヒヤリ・ハットが発生した背景には、必ず不安全行動や不安全状態があるからです。

現場では報告者の責任を追及せずに、ヒヤリ・ハットを報告させることで、現場に潜伏している不安全行動や不安全状態を明らかにして、大きな事故の発生を防いでいるのです。

うわば、したば 【工事業界の専門用語その5】

_ABC0281_s「上端」と書いて「うわば」、「下端」と書いて「したば」と読みます。

日常生活では「じょうたん」や「げたん」と読んでも間違いではありませんが、
工事の現場では「うわば」や「したば」と読みます。

電気設備工事の場合には、壁面に設置されている盤や、器具などの上端の高さを指して、「うわば」と説明をしたりしています。

設備設計者との打ち合わせのときには、「上端(うわば)」の他に、同じ意味で「天端(てんば)」が使われることもあります。

後から来る塩害【現場のなぜ?その3】

electricalworker台風24号が通過したのは9月30日から10月1日まででしたが、塩害による電柱や電線から火花が出たという報告は翌日の2日の夜からでした。

台風の強風によって海水が運ばれて付着した塩分が、電解質として霧や小雨に溶けることにより、通常より導電率が高くなった水分の中を漏れ電流が流れます。
導電率が高くなるということは、電気抵抗が低くなることなので、いつもの霧や小雨よりも電流を流しやすくなります。

電気抵抗に電流が流れると発熱し、その熱によって水分は蒸発し乾燥します。
その乾燥した部分の両端の水分には高電圧がかかったままなので、この乾燥部分で火花放電が発生すると考えられています。

火花放電が発生する条件として、霧や小雨といった少量の水分と、その水分を蒸発、乾燥させる時間が必要になります。
そのため、電気設備の塩害による影響は後から出てくるのです。

気象庁のデータによると、宮崎では9月30日16時に0.5mmの降水量記録を最後に雨は止みました。
その後は10月3日の21時に0.5mm未満の降水量が記録され、10月4日の朝6時まで降水量が記録されています。
宮崎ではその後も断続的に雨が降り、4日18時頃から1時間20分程度、JR日豊線と宮崎空港線の一部区間で大規模停電による運行トラブルが発生しました。

千葉では10月1日3時に0.5mmの降水量を記録した後に雨は止み、10月4日13時の0.5mm未満の記録から断続的に降水量が記録され始めています。
翌朝の5日7時45分頃には千葉市の京成線西登戸駅で停電が発生。京成電鉄では9時半までに他の駅3か所でも電線からの火花を確認したため、19時50分頃まで全線で運転を見合わせ、電気設備の点検を行いました。

降水量の記録開始から、実影響までの時間差から考えると、10月2日に電柱や電線から火花が出たのは、前日まで続いた台風による大雨の水分による影響の可能性が疑われます。

塩害停電対策【現場のなぜ?その2】
http://blog.livedoor.jp/yomiuri_denki/preview/edit/24200138265d80c9dfe6795a5c4a1206

塩害停電対策【現場のなぜ?その2】

送配電線路(送電線・配電線の設備)や屋外変電所の碍子(がいし)に付着した塩分が霧や小雨に溶けることにより、その塩分を含んだ水を流れる漏れ電流が塩害発生の原因と考えられています。
塩分を含んだ水の電気抵抗は、一般的な雨水や水道水の100分の1程度になります。
電気抵抗が小さくなれば、碍子表面の漏れ電流は流れやすくなり、電流の増加によって発熱量は増加します。
その発熱によって碍子表面が乾燥し、部分放電が発生したり、フラッシオーバーに移行することによって事故が発生し、停電を引き起こします。

空気中の塩分量は風速の2乗で増加するという研究結果もあり、風速10m/s以上の海風が吹くときには、沿岸部の各種構造物などへの塩分付着量が急増するとされています。

それでは、なぜ沿岸部では塩害による停電が少ないのでしょうか。
それは、塩害の発生が考えられるところでは、塩害対策が既に講じられているからです。

塩分付着量は海岸から離れるに従って減少するという分析結果があり、停電事故を防止できる最適な碍子の選定と配置を電力会社は進めているのです。

今回の平成30年台風24号では関東地方でも非常に強い風が吹き、最大風速と最大瞬間風速の観測史上1位の値を更新した地点が複数あります。
台風通過前に太平洋から吹き込んだ強い南風は、これまで塩害対策を施す必要がなかった海岸から離れた地域まで、大量の塩分を運んで塩害発生に至る量の塩分付着を引き起こしたようです。

塩害対策については、第二種電気主任技術者試験(電験第二種)では2006年度、第三種電気主任技術者試験(電験第三種)では2008年度や2015年度などに出題されています。

電気室の配置【現場のなぜ?その1】

電気室が浸水したというニュースがありました。

一般的に「キュービクル」と呼ばれる、キュービクル型受変電装置は屋上などに設置され、浸水することは普通考えられないのですが、なぜ電気室は浸水するのでしょうか。

建物の規模にもよりますが、受電条件や、建物内への配電系統、接続されるその他の設備などの制約条件により、キュービクルに簡素化して収容されている機器では対応が難しいときには、建物内に電気室を作って、電気室内に受電設備機器や、配電するために電圧を下げる変電設備機器などを個別に設置して、電力会社から供給される電力を建物内(構内)で使用できるようにします。

電気室を配置するときに考慮するのは次の点です。
①電力会社から引き込むことが容易なこと
②電気室に設置する機器の搬出入が可能なこと
③電気室に設置する機器の保守スペースや拡張スペースを確保すること
④電気室に設置する機器の重量に床の耐荷重が耐えられること
⑤接続されるその他の設備(非常用発電機や空調設備など)に近いこと

⑤の非常用発電機や空調設備なども、②~④は一緒のため、これらの電気室や発電機室、空調機械室などは地下に隣接して作られることが多いのですが、現在では洪水などによる浸水対策を講じることが一般的となっています。
しかし残念なことに、配置計画や設計段階で想定できない洪水になったときには浸水してしまっているというのが現実のようです。

電気工事業という仕事

電気工事士の仕事と言えば電気工事です。
しかし、電気工事「業」を営むことが認められている組織の一員にならなければ、電気工事をすることはできません。
これは、電気工事が社会にとって、安全、安心なものとして適正に行われることを目的としています。

「電気工事士法」
電気工事士法は、電気工事士の資格や義務が明示され、電気工事による災害を防ぐことを目的としています。
電気工事士が取扱う電気設備は「電気工作物」と呼ばれ、電気事業の運営を定める「電気事業法」と関連があります。

「電気工事業法」
正式な名前は「電気工事業の業務の適性化に関する法律」と言います。
この法律は、電気工事業者の登録などと、業務の規制について書かれており、電気工作物の保安の確保を目的としています。

「建設業法」
現在、建設工事は28種類あります。電気工事も建設業のひとつです。
建設業法では、建設業者の資質の向上や、建設工事の適正な施工について定められ、建設業に関係する発注者や下請負業者の保護も目的としています。

電気工事の仕事に就くためには、災害事故を起こさずに電気工事ができるだけではなく、社会で暮らす人々が電気を安心して使うことができる設備を作り、お客様や一緒に働く仲間と一緒に業界を発展させることが大切とされています。

だから、電気工事屋さんの入口には「電気工事業」に関する掲示が2枚あります。
① 登録電気工事業者登録票 (電気工事業法に基づく)
② 建設業の許可票 (建設業法に基づく)

こういった法律や、工事屋さんの入口にある掲示の話だけでは「電気工事業」をイメージするのは難しいと思います。
しかし、社会で暮らす人々が何も気にすることなく、当たり前に電気を使えることを支えているのが「電気工事業」という仕事であることが分かってもらえれば嬉しいです。

電気工事のオリンピック

7月27日、イギリスで第30回オリンピック競技大会(2012/ロンドン)が開幕しました。
連日、ロンドンから日本選手団の活躍が報じられています。

電気系国家資格として「電気工事士」があり、毎年多くの方が受験をしています。
資格が有名な一方で、知る人ぞ知るのが「電気工事のオリンピック」です。

「技能五輪」と呼ばれている、この職業に関するオリンピックは、競技種目が電気工事の他にもあり、50弱の職種で各国の代表が磨いた技を競いあっています。
第41回技能五輪国際大会日本選手団の成績について (厚生労働省のWEBサイトへリンク)

厚生労働省のWEBサイトにもあるとおり、昨年10月には第41回技能五輪国際大会がイギリス(ロンドン)で開催されました。
日本選手団は、39種目に参加して11種目で金メダルを勝ち取ることができました。
「ものづくり」のパワーが衰えていると感じられる日本ですが、この「技能五輪」は参加資格が22歳以下という条件もあり、まだまだ日本の若者たちも捨てたものではないという嬉しい思いを抱いています。